? GNHの応用 - GNHを中心とした町つくり その3 -


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GNHを中心とした町つくり その3

「伝統文化をどうとらえるか」

 GNHを計る指標のひとつとして「伝統文化の保全と創造」という項目がある。伝統文化の定義を「その土地または地域に根付く文化が受け継がれているもの」と規定すると、創造行為とは両立しないように思える。

 伝統文化自体がすべてにおいて素晴らしいものですべて受け継ぐべきものとの筆者は考えていない。伝統文化の中にも悪しき習慣や現在の価値観にそぐわないものは数多い。よって伝統は時代の流れと共に変化し順応すべきものだと考えている。
 伝統文化はその地域の地勢条件などの具現化である。つまりその町の特色に自然と馴染むものが受け継がれている。それは気象を含めた風土なり、住民の気質なり様々な要素が長年にわたって磨かれて来たものなので、一概に否定できない。むしろ多くの経験知が詰め込まれていると考えたほうが自然である。

 現在、ケルトの知恵に学べとう動きがあるのをご存知でしょうか?ケルト民族はアイルランドに古くから住む民族で、歌手のエンヤ嬢の歌や指輪物語などで日本でも知られるようになった民族です。
 彼らの文化は現在再評価されています。彼らの文化はヨーロッパのどの文化にも引けをとらないものだったと言いますが、他との大きな違いは「その文化を文字情報にして残していない」事です。その理由として「文字情報にするとそれ自体がフレキシビリティを失い、強制色を持つ」からだそうです。
 よって彼らの文化は基本的に口答での伝承です。口答ということは伝言ゲーム等で皆さん経験があるかもしれませんが、微妙に人によって変化して行きます。このように時代によって変化します。この状態をケルト人は最良と考えたのです。

 ブータンの GNH 思想は、現在も文章化して伝統を作り続けるものでケルトの文化伝承とは異なりますが、伝統は変化し続けるものであると考える点では共通点があります。また伝統自体の情報の価値がより人々や時代にマッチしているように思えます。

 普遍な文化・情報はその時代を知るうえで重要であると筆者は考えています。しかし町作りの観点から考えるとフレキシビリティを持つ伝統文化=地域の知恵+時代にあったものは地域の財産です。その町をまとめ、人々の共通認識の形成に大きな役割を果たすでしょう。
 伝統とは決して古いものではなく、経験知の集積です。この考え方が地域に応用するときの重要な視点となるのです。

 

文責 平山修一

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