? GNHの応用 - GNHと戦後の平和復興 その1 -


~指針となりうるもの~ 平山修一

 GNHはその解釈と共に、指標化しにくい概念だと捉えられている。確かに主体的な観念を数値化するのには無理な面があるが、そのような状況下でも指標化に繋がる指針はブータン王国の指導者を中心に考察されてきた。

 ここに記載するものはあくまでも GNH自体の指標化ではなく、 GNHを感じることができる社会造り(環境造り)に必要な指針であると筆者が解釈したものである。以下にその代表的な指標を記載し、その分析を試みる。

 先ずは GNHを計測する指標モデルとして Tobgay S Namgyalが以下の表を作成している。これらの指標の中には計測不可能なものも多いが、非常に参考になるものである。

根本的な原因

(影響されない独自変数)

人間の資源利用

(双方に介在する変数)

生態系と人間の利用による影響

(左右される変数)

Gross

National

Happiness

 

国民総幸福量

生態系の構造

水・土・エネルギー

生物種・植生

人口

地位・変化

生活の質

健康・教育・雇用

安全・娯楽

文化の意味

宗教と真実

知識・アイデンティティ・社会規範

信念と神話

暮し

食糧生産・飲用水

エネルギー・住居

確実な経済

公平な収入の分配

賃金のバランス

外貨保有高

経済的利益

土地・領域・資本

水・労働者

商業と工業

工業製品

国内外の貿易

自由

経済・社会政治

政治的権力

法・聖職や社会の命令

経済発展のポリシー

領域と所有者

生態系の経過

エネルギー源

水の質・空気の質

栄養分の状態

物的な生物量

生態系の質

生態系圧迫

生態系安定

(出所) Tobgay S Namgyal “ Sustaining conservation finance: future directions for the Bhutan trust fund for environmental conservation” Journal of Bhutan Studies, 2001, Volume 3 No 1, Summer 2001, The centre for Bhutan Studies p 81 より筆者が作成

 上記の表は分かりにくく、主観的なものが多く介在しているように筆者には見受けられる。ようはこれらの個々の指標の追求ではなくてこれらの指標の関連性をもっと明らかにし、どの指標とどの指標とのバランスを取ることが必要なのかを明確にすることが求められる。

 つまり外的な要因と主観を持って認識されるものとの区分けが出来ていない。 GNH を感じるのは人間である。その点を整理しないと指標とはいえない。よって以下には文章によって表現された GNH の指標を分析してみる。

 2000 年に打ち出された国家戦略のブータン 2020 の中に GNH の指標足りうる概念をまとめた文があるので以下に記述する。

“These five objectives are human development, culture and heritage, balanced and equitable development, governance and environmental conservation. ”

 上記の文章を翻訳すると、 GNH に必要な要素は、人間開発、文化と遺産、バランスのとれていて公正な開発、ガバナンス、環境保全と考えられる。時系列では逆になるが、この考え方をより集約したものが下記の指針である。

 これは「 Lyonpo Jigmi Y.Thinley ” Gross National Happiness and Human Development ” Gross National Happiness, The centre of Bhutan studies, 1999, p15 」に謳われているものだが、この 4 本の柱はより理解しやすい。前文から「人間開発」のエッセンスが抜けているが、この解釈については今後の研究課題である。特にアマルティア・セン教授や早稲田大学の西川潤教授の解釈を踏まえて考察したいと思う。

 その Jigmi Thinley が提唱するところの GNH に必要な要素は、

  • ・Sustainable and equitable socio economic development
  • ・Conservation of the environment
  • ・Preservation and promotion of culture
  • ・Good governance

つまり

1は「持続可能かつ公正な社会経済学的発展」

つまり後世に必要な資源や自然環境を残しつつも実利のある経済発展を望むと言う意味である。この 2 つの概念は両立可能であることを示しており、また両立しなければ GNH を育む土壌は育たないとも解釈できる。

2は「環境の保全」

これは上記にかかる問題であるが、国や社会を取り巻く環境は保全するべきであるという意味である。人は自然から多くの恩恵を受けている。この事を深く理解し、自然を収奪するだけではなく再生可能な範囲で利用し、自然と共存する道を選択する事を意味している。 GNH を感じるには豊かな自然が不可欠なのである。
3にも関わる事だが、自然のみならず社会環境の保全も意味していると解釈できる。

3は「文化の保護と促進(再生)」

これは2で言うところの環境保全にも繋がるが、人のアイデンティティ形成には文化は欠かせないものであり、その文化に裏付けられてこそ、 GNH を感じることができるという解釈である。
あえて保護と促進と銘打っている意味合いとして、「これ以上の文化崩壊を防いだ上で、今残っている文化に時間軸を考慮して新たな文化を創造する」とも解釈できる。

4は「良い統治」

良い統治とは社会や国民を取り巻く国家のあり方を説いている。統治という言葉はさまざまな解釈ができるが、どのような国家体制がその民族やその国民に合っているかは難しい。しかし、その国の国民の大部分が GNH を感じることが出来る統治体制こそが良い統治と言えるのではないか。

これらの GNH の指針に関しての新しい解釈は こちらを参照して欲しい。