<< 一つ前のコラムへ 次のコラムへ >>

デング熱報道について思った事

2014年09月09日

デング熱報道について思った事

 東京の代々木公園でデング熱に感染した人が続出している。これ自体は非常に驚くべきことであるが、その事と同時にデング熱は海外でかかる感染症であるとの一般的な日本人の認識が覆された事に衝撃を覚えた。
 精神科医の香山リカ氏が自身のツイッターで「海外渡航歴の無い人の感染を最初に疑った医師はすごい」との趣旨のコメントをされていたが、同感である。今の日本は既存の常識や前提条件に縛られていてはいけない状況下になったことを改めて認識した。

 筆者はタイのバンコクでデング熱にかかったことがある。急に39度近くの高い熱を発症し、強い頭痛が続き、体中に赤い発疹が出た。このときに病院に行けない状況にあった。まず始めに鎮痛解熱剤を飲もうとしたところ、インド駐在歴のある友人が薬の服用をやめて大量のスポーツドリンクを飲むようにアドヴァイスしてくれたため、それに従った。
 数日後、病院でデングの疑いありと診断されたが、その際医師からは「もしある種の鎮痛解熱剤を飲んでいたら劇症化して場合によっては命を落としたかもしれない」と言われ、肝を冷やした。結果的に友人に命を助けられたのである。

 デング熱は基本的に熱帯や亜熱帯で発生する感染症である。わが国では 1940 年代の一時期に関西以西でデング熱の流行がみられたとの記録があるが、それ以降、国内感染のない感染症であると国立感染症研究所のホームページにあった。
 多くの途上国ではデング熱は農村のみではなく都市部で多く発生する感染症である。またデングウイルスを媒介する蚊は日本にも従来固有に生育している。あとは日本が熱帯のような環境になればデングウイルスが常在する条件が整ってしまう可能性もなくはない。

 最近の報道は「何人デング熱にかかったのか」、「デング熱を持った蚊は何処にいたのか」、「デング熱はどうやって感染するのか」に集中されているように思える。しかし元患者としては「もし自分がその疑いがあった場合どう対処したら良いのか」の報道もあった方が良いのではと感じる。
 「午後3時~6時の蚊が頻繁に活動する時間帯は特に注意する」、「藪に入る際は長袖長ズボンが良い」、「蚊は明るい色を嫌う」、「蚊は体温が高い人を好む」これらの情報は途上国に渡航する人ならごく基礎的な情報である。

 今回の報道を受けて、地球温暖化によって生活環境が変わりつつある日本では、今後これらの今の日本人が途上国で暮らすのに必要な病気に関する基礎情報が必修になる日が近いかもしれない。
 多くの場合、ニュースは他人事である。一種の娯楽化していると言っては問題があるが、多くの報道は自分の事として考えにくい人が多いであろう。しかし今回のケースは東京のど真ん中、東京に通勤している人ならばどの人にも感染のリスクはゼロではない。
 ニュース報道に接した時、そのニュースと自分との間に関連性をイメージし、考察する能力を持つことこそ、本当の意味での報道との付き合い方ではないかと思うのである。

文責 平山修一

<< 一つ前のコラムへ 次のコラムへ >>