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うかつ謝り

2014年07月15日

うかつ謝り

 先日、電車の車内で驚いたことがありました。駅を発車した電車が急にブレーキをかけた為、拍子で隣に立っていた男の人の足を踏んでしまったのです。『ごめんなさい』ととっさに言ったのですが、その時相手の人も『ごめんなさい』と私に言ったのです。
 何故足を踏まれた方が謝るんだろう・・・。友人にこのことを話すと『それは足を踏まれてもとっさに避けられなくてごめんなさい。貴方に不快な気分を起こさせてしまいごめんなさいという意味合いで言ったのでは』と言われ納得しました。
 確かに足を踏まれた方が『このやろう』と言った瞬間からその場の雰囲気はとても悪くなりますよね。でも踏まれた方が謝るとその場の雰囲気がとても和らぐことでしょう。

 南アジアのある国ではある人が誤って物を壊してしまったときにも『これはそういう運命だったんだ』と持ち主が言うことがあります。これも責任をあえて明確にしないという気配りです。大人の対応ですよね。

 場所は変わって日本の江戸。今のようにテレビもラジオもない時代、極端に言えば鹿児島と新潟は別の国、今より話し言葉の訛りもきつく、お互いのコミュニケーションもうまくとれない場合もしばしばあったでしょう。
 そんな多種多様な文化や伝統の背景を持つ人たちが集まり暮らす町では様々なトラブルも起きやすかったと思われます。これは考えようによっては今の日本も同じですよね。地方出身の人のみならず、多くの外国人も住んでいます。
 足を踏まれてもとっさに避けられなかった自分のうかつさを恥じる、これは江戸しぐさでは『うかつ謝り』と言われています。本当は痛くても『てやんで~これっきしの事、なんでもねーや』と痩せ我慢をするのが当時の粋な江戸っ子だったのでしょう。
 アジアの多くの国では同じように『問題ない』という言葉を多用して、相手とのトラブルを回避しようとします。こうした姿勢は私たち日本人もたまには真似してみると、世の中が少しは明るくなるかもしれませんね。


文責 平山 修一

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