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日本の地域とGNH

2013年01月28日

日本の地域とGNH

生存競争
 日本は国単位で見れば経済上豊かになり生活の質も向上した。これからもハード・ソフト両面の様々な分野でイノベーションを試み環境制約を克服しながら他国との生存競争に挑んでいかなければならない。もちろん協力・共生関係を築ける国もあるだろうが多くの諸外国・民族は競争に勝たないといけないという思考パターンを持っている。

Sympathy
 資本主義、市場経済という競争の場面において失われがちなものがある。それはSympathy(同感、共感、思いやり)である。アダム・スミス自身、人間は他者を思いやることができること、および市場経済が社会を良くすることの両方を説いている。しかし現実には様々な制約によってSympathyを欠いてしまうことも多いだろう。 このような条件下で生じる社会的損失(典型例は交通混雑)を解決する方法の一つが公共政策である。公共政策のうち21世紀の日本人がより幸せに生きられる地域のあり方について少し目を向けてみる。

人生環境
 都市計画では意図的に一定の空間内の物的配置を割り当てる。その目的はいくつかあるだろうが基本的な性質として特定の人々ではなく住民の大多数にとって経済性・快適性等の観点から望ましい自然・人工空間をデザインするという強い公共性を持っている。  都市計画の考え方をもっとダイナミックに展開させると地域政策になる。対象範囲は限られたエリアではなくときに市区町村を超え仕事(職)、娯楽、芸術、文化、教育、福祉の環境をどのようにどれだけ整えるかに及ぶ。つまるところ人々の人生環境の多くを規定する。

幸せの原体験
 今日の多くの日本人が望む生活の質はあらゆる面で高水準となりもはや一個人では実現不可能で、公共政策等による調整がますます必要となっている。市場経済システムの補完に加え、日本人が幸せになる、例えば物的生活環境、仕事などの社会貢献、知的好奇心に対する欲求が満たされる条件の一つとしても地域政策の果たす役割が拡大しているのである。
 このことを実感したのが福岡県北九州市で30歳前後を過ごした1998年からの5年間だった。仕事と大学教育こそ他の土地で得ていたものの自然、空間のゆとり、娯楽、美食、芸術、文化、福祉が豊かに調和した幸せな人生環境だった。選択肢の質的多様性がある環境、と言い換えてもよい。

GNHの優位性
 そのような地域をデザインする上で参考となるのが意外にもブータンであると知ったのは2004年のことである。経済上の豊かさを幸せに影響を与える一要素とし他の8要素を並列的に加えてGNH(国民総幸福)という政策目標を打ち出したことは世界にインパクトを与えた。GNHに学ぶべきは複数要素を組み合わせている点である。

 自動車に例えると市場経済は量的で直線的な成長へ導いてくれるアクセルの役割を担う。GNHに含まれる他の要素はスピードを制御できるだけの性能を持ったブレーキや最高速度の制限、舵を取るハンドル、動力となる燃料等を表し、自動車は少なくともこれら四つの主成分が揃って初めて「意味」を持ち人々に具体的な生活の潤いを与える。ドライブの楽しさはアクセルの質感、ハンドリング、ブレーキング、決してトンネル内ではない景色の良さなど複数条件の組み合わせとバランスで構成されている。

 GNHや地域政策はこの当たり前のことにあらためて気づかせてくれるし、自分の住む土地に根差して過ごす日常の総体こそが幸せの源であることを21世紀の日本人に諭している。

(以 上)

 

文責 山下 修平
GNH研究所会員。幸福をキーワードに国際協力機関と大学院で世界の飢餓と日本の地域政策に取り組む。

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