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心地よく過ごせる社会に向けて

2012年07月13日

心地よく過ごせる社会に向けて

 皆さんは、「四朋獣図」というブータンに古くから伝わる絵をご存じだろうか。象の上に猿、その上に兎、そして一番上に鳥がのっており、鳥が木の実を収穫しようとしている絵である。種を蒔いてから、皆が協力し合った結果、木の実がなることを表しており、この絵を通じて、「年齢や社会的地位など立場の違う人々がお互いを尊重し、助け合うことによって、平和や幸せがもたらされる」ということが説かれているそうである。私は、2008年の年末に初めてブータンを訪れる機会があり、現地の方からこの「四朋獣図」の掛け軸をいただいた。眺めているととても癒される絵で、込められた意味も含めて大変気に入っている。ブータンでは、ゾン(城)などをはじめとして、多くの場所でこの絵を目にすることができ、ブータンの人々にとても親しまれている様子がうかがえる。

picture 私は、この絵にはGNH(Gross National Happiness=国民総幸福)のエッセンスが凝縮されているように感じている。ブータン政府の提唱するGNHとは、「国民が幸せを追求できるよう政府が社会環境を整える」というものである。国民一人一人が幸せを感じて生活するためには、もちろん政府の役割はとても大きいが、「四朋獣図」に表されているように、個人レベルに於いても一人一人が思いやりを持ち、お互いに助け合っていくという姿勢が大切であると思う。なぜなら、どんなに小さなことであっても、人からの思いやりある配慮を受けた時にはとても嬉しく感じ、自分も配慮したいという気持ちになるし、何よりも、多くの人が「人との繋がりを通して幸福感を得ている」という事実があるからである。

 例えば、歯科医院に通っていた時のことだが、とても心に残っている場面がある。治療を終えて帰る際、閉まりそうになったエレベーターに乗ろうとする私を「開」ボタンを押して待っていてくれた小さな男の子(4歳ぐらい)がいた。もしかしたら興味本位でボタンを押していただけなのかもしれないが、私にはそのことがとても嬉しく、その日1日、とても気分が良かったことを覚えている。他者を思いやる気持ちを忘れずに、それを素直に表すことのできる人が増えてくれば、どのような環境にいても皆が心地よく過ごせるし、そういった良い循環が自然とできて徐々に広がり、心地よく過ごすことのできる社会が実現していくのだと思う。「何だか気恥ずかしくて、なかなか行動ができない」という人が多いかもしれない。しかし、勇気を出して、自分にできる範囲で、まずは小さな種を蒔いてみては如何だろうか。小さな種が、やがて大きな実を結ぶことになるかもしれない。

 

文責 小島 有紀子

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