<< 一つ前のコラムへ 次のコラムへ >>

国益としてのODA

 自民党から民主党に政権が移って早1ヶ月強になる。脱官僚の旗印の下、多くの『改革』が遂行されている。確かに政権公約があり、それを掲げて選挙に勝ったからには、それらの履行は当然の責務であろう。
 民主党の公約の一部に政府歳出のカットがある。簡単に言えば無駄な支出を減らし、国民の直接裨益に結びつく政策に優先的に傾斜配分するというものである。その歳出削減の対象のひとつに挙げられているのがODA(対外政府開発援助)である。
 一般の人がODAと言ってイメージするのはアフリカの井戸掘りや、どこかの国で橋や道路を作るようなインフラ事業であろう。または青年海外協力隊員の人道的な活動や災害緊急援助などの絵になりやすい活動ではないか。

 日本のODAは『国つくり、人つくり』をスローガンに掲げ、人道的な援助を中心に据えている。しかし欧米諸国のODAは自国の国益の為にあると明確に方針を打ち立てており、日本と違って国民が理解しやすい。
 草野厚氏は、なぜ日本のODAは必要か、との議論に対して以下の所見を回答している。

  1. 人道的なモラルとして相応の負担を負う
  2. 途上国の資本主義の健全な発展に寄与する
  3. 天然資源確保のため、友好的な関係を築く目的
  4. マラッカ海峡の無害通航の確保

の4点である。
 石油の大半を輸入に頼っている日本にとってマラッカ海峡は石油輸送つまりエネルギー戦略の要である。よって日本の船舶がマラッカ海峡を安全に通行する為には、インドネシア・タイ・マレーシアなどの周辺諸国が政治的、経済的に安定である必要がある。
 また途上国の資本主義の発展とは言い換えれば日本製品の市場の拡大である。資本主義が健全に発展する為には、対象国が法治国家となり、一定のルールを遵守する政治・行政・裁判体制が確立される必要がある。公正なルールがあってこそ、企業の活動が担保されるのである。

 近年、日本のODAはガバナンス・法整備支援を多く手がけている。また日本の支援を要請する旧ソ連諸国も増えつつあると聞く。これらの支援は相手国の国としての根幹を成す非常に重要な支援であると、同時に日本のプレゼンスを発揮するチャンスである。
 支援によって公正なルールを持つ事により、非援助国は国際社会の仲間入りが出来る。と同時に、公正なルールに則った競争でこそ、もの造り・勤勉との日本的な利点が評価されるのではないか。

 このように考えると日本のODAは、先行投資に値するのではないか。短期的な国益は挙げられないものの、長期的な展望で見れば、決して無駄ではなく、むしろ率先して他国へ支援を行う事こそ、日本の国益に繋がるのではないか。
 国の行う事業まで効率性・短期的な有効性や効果を求めるべきではない。民主党政権にはもっと大きなビジョンを持って、長期的な戦略の元ODAを有効活用して欲しいと思う。

 

文責 平山修一

<< 一つ前のコラムへ 次のコラムへ >>