<< 一つ前のコラムへ | ![]() |
次のコラムへ >> |
価値観の調和
三浦展は『下流社会』の中で、現代の若者を、所得の低さに加え、「コミュニケーション能力、生活能力、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、つまり総じて人生への意欲が低いのである。・・・そして彼らの中には、だらだら歩き、だらだら生きている者もすくなくない。その方が楽だからだ」 と描写している。なぜそのような事態が起こったのであろうか。
戦後の焼け野原の復興において、人々が目指したのは、人間の本能的欲求ともいえる衣食住の充実であり、物質的な繁栄だったであろう。そうした、物質的充足への強い願望が、戦後の高度経済成長へと繋がり、経済的成長を実現したのではなかろうか。あの時代でおいては、物質的な繁栄こそが絶対的な価値観だったのである。
しかし、悲観的な要素ばかりというわけではない。戦後の物資的飢餓から現代の精神的飢餓ときて、その両方の苦しみを知った今だからこそ、ようやく両方が調和された中道的な価値観が実現される可能性が高まっているのである。今の時代は、物質偏重の時代から、精神性重視への復興が起きる、過渡期であり一つのターニングポイントである。旧来の価値観から開放され、一人ひとりの欲求に素直になれる時代だからこそ、そこに生きる私たちには、「自分が本当に大切にしたいものは何なのか」について向き合い、実現へと取り組む勇気が求められている。
文責 斉藤光弘 三浦展『下流社会―新たな階層集団の出現―』光文社新書、p.7 |
<< 一つ前のコラムへ | ![]() |
次のコラムへ >> |