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立ち位置

 2003年のヒット曲『世界に一つだけの花』は、♪僕らは世界に一つだけの花 一人一人違う種を持つ その花を咲かせることだけに一生懸命になればいい♪ と歌いあげる。ヒットの要因が人気者の歌い手達にあるのか、曲なのか、歌詞なのか定かではないが、「自分は自分、他者と比べることはない」と受けとれる歌詞に、一種の慰めを感じた人々が少なからずいたことは想像できる。
 しかし、「良い意味での自分中心」を謳っているかに思えた歌詞は、最後に、♪No.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one♪ と、突然「上昇志向はないが特別である」ことを強調する。この最後の一行によって、他者との比較を否定しているように進んでいた歌詞が実は比較している、という矛盾をみせる。
 「自分は特別な存在」と自己規定(認識)することは、はたして幸福感につながるのであろうか。自分で「自分は特別な存在」と規定したその時から、他者を見下すことはないのか。「特別な自分」を特別扱いしない他者に不満は抱かないのであろうか

 他方、1978年に世に出て以来、ファンの間での人気投票で不動の一位を誇る『主人公』は、その最後で♪自分の人生の中では誰もみな主人公  私の人生の中では私が主人公 ♪ と歌う。「活力ある前進姿勢」とは言えず、確かに「ささやかな幸せに安住している姿勢」ではある。しかし、他者との比較を排した立ち位置は、自分を損なう感情を持つことなく、時には他者に実害まで及ぼす状況を生み出すこともなく、穏やかに過ごせるのではないか。
 自分を特別な存在と規定したが故に他者を見下し、特別扱いを求め、自分だけではなく周囲にまで様々な不安や心労を与え続けている人物をみていると、立ち位置の選択が重要な課題であることを感じる。

 なお、本稿は作曲技量、歌唱技量は一切考慮していないことをお断りしておく。それぞれの歌詞全文は下記を参照されたい。

『世界にひとつだけの花』
http://www.hi-ho.ne.jp/momose/mu_title/i_sekaini_hitotsudakeno_hana.htm

『主人公』
http://musicfinder.yahoo.co.jp/shop/p/53/29207/Y010769

 

文責 山本けいこ

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