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「ありがとう」の効用

 私たちが住むこの世界では、好むと好まざるとにかかわらず、「他者と関係性を持つ」ということが生活の基本となる。人は生まれながらにしてすでに、家族との関係性を持っているし、アリストテレスが「人間は社会的動物である」と言ったように、高度に分業化されたこの社会で、人との繋がりを排して生きるということは限りなく困難である。では、免れることのできない人と人とのつながりを考えるとき、大切にしなければいけないものは何であろうか。筆者はコミュニケーションにおける「ありがとう」という言葉に注目したい。

 私たちは成長するにつれ人間関係の幅が広がり、複雑化していく。しかし、単純化して見れば結局のところ、それらの根底で共通しているのは、「自分以外の誰かと関かわりを持つ」ということではないだろうか。逆に言えば、この「他者との関わり」にうまく適応できないことが、家庭内の不和や、自殺、いじめ、引きこもりやニートといった様々な社会問題につながっている気がしてならない。その様な状況では、良好な人間関係の基礎となるコミュニケーションが不足していると考えられる。

 コミュニケーション一つとっても、様々な質のものがあるが、精神科医の斉藤茂太によると、人は「ありがとう」という意識を持つとき、脳の血流量が増加し、思考が明晰になり、ストレスが減少するそうである。また、免疫システムが向上し、体調が良くなることで、精神衛生にもポジティブに働き、周囲との関係性がよりよくなるとも述べている 。つまり、他者との関係性改善において、一番有効なコミュニケーションは、笑顔で言う「ありがとう」なのである。筆者にも経験がある。苦手だなと思っていた人から不意に感謝の言葉や、ポジティブな言葉をかけてもらったことで、その人に対する感じ方が変化したことが。

以上、述べてきたように「ありがとう」という言葉には、人間関係をより円滑にしてくれる潤滑油になる機能があるのである。これまで何か照れくさくて言い出せなかったとしても、家族であれ、友人であれ、嫌いな上司であれ、どんな小さなことであっても、何かをしてもらったときには「ありがとう」と笑顔で言うところから、日々の生活が豊かになっていく気がしてならない。

 

文責 斉藤光弘

参考文献  斎藤茂太『人生を変えた感謝の名言』日本文芸社、2006年、p.5

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