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肥満について思うこと(その3:肥満と伝統食)

 一般的に自然条件の厳しい途上国の伝統食は少ない量でも高カロリーのものが多い。その理由は「いかに少ない食料で多くの人が生き延びるか」を重視していた事が理由のひとつであろうと推測できる。
 人が集落を形成し始めたとき、その集落の第一目的はおそらく「存続」であったろう。自然環境が厳しいほどその単位面積あたりで生存できる人間の数は少ない。よって肥沃な土地に大規模な集落が発生し、そこから文明が発生したと考えるもの自然な成り行きである。

 存続を目的とした集団はその地勢、自然条件の中で最適と思われるものを集団のルールとして採択していく。それが伝統、文化、ひいては宗教の始まりであった。そしてその条件下で子孫を残す為に、集団が生き延び存続するためのカロリーを摂取する為に、伝統食が生み出された。
 そのような意味合いがあった伝統食は今や肥満の原因のひとつに挙げられている。ある意味、食糧増産や輸入食品、工業食品や流通の発達、保存技術の発達はその国の食生活を画期的に代えていった。

 ブータンの例だが、15年前には年に数回(正月と収穫祭)しか口に出来なかった肉が現在では一年中購入でき、一般的な家庭でも今では一日に一回は肉食をしている。伝統食に多用されているバターやチーズも多く投入すればより美味しいわけで、以前の料理レシピよりはるかに大量に摂取されている。
 高カロリーだが摂取量が少ないことで肥満にならなかったのが、毎日大量に摂取するようになると当然太るわけである。しかも習慣化しているものはなかなか変えることは出来ず、多くの肥満者を生み出したのである。

 その反面伝統食離れによって起こる肥満もある。それはファストフードや加工食品である。ファストフードの多くはコーンと小麦から出来ている。高カロリー食を支えるコーンの大量生産がその品種改良により可能になり、多くの油、コーン製品が安く大量供給できるようになった事は今の食生活の変化を語る上で見逃せない要因のひとつである。

 肥満は社会現象である。貧困状態+その国の社会状況によって飢餓状態か肥満状態になるか分かれるのである。伝統は守るべき部分とUp-dateされるべき部分を持っている。そう考えると伝統食も変化せざるを得ないのではないか。食ひとつとっても難しい問題である。

 

文責 平山修一

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