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市町村各位 「ブータン的構造改革」

 ブータン王国で世界初とも言える「タバコ販売全面禁止令」が、世界中の新聞紙上を賑わせた。先進国に先駆けた、この政策でヒマラヤの小国は一気に「人権保護」「予防医学」の分野における世界的優位を獲得したといえる。王国はどれだけのリスクを経てこの政策に漕ぎ着けたのか。

 仏教国であるこの国では、伝統的教義の中で禁煙が唱われてきた。また、人々の間では、ビンロウの実を新鮮なキンマの葉で包んだものを口に含む「ドマ」という趣向品が好まれている。もともと喫煙率の低い国である。また全てのタバコは輸入にゆだねられており、今回の法令に対する国政へのリスクは我々が受ける印象よりも明らかに低い。少なかった喫煙者の数は法令後、明らかに減少しているものの未だ通りで喫煙者を目にする。内政的には禁煙政策への意向がうかがえるものの個人の意志を尊重しているのか、アメリカにあける禁酒法とは明らかに異なったムードを感じる。

 今回の政策で小国ブータンは、世界に向けて自国を十分にアピールする事に成功した。同時に自国民には国民性を生かした無理のない方法で、伝統を顧み団結を訴えた。国民は自国にプライドを感じ、結果として労働生産は向上するであろう。一つの政策で「外交」と「内政」両方の成果を得たのである。環境社会学の立場からブータンを研究する平山修一は、これを「ダブルスタンダード(二重構造)の政策であり、途上国が国家主権を保つ為の必然的な選択ではないか」と述べている。

 伝統を尊重する。我が国における政策または「町興し」と言えば、外からの情報を多く取り入れる事ばかりが良い事とされ、その土地で数千年かけて培ってきた、最善の知恵は疎かにされていることが多いように見受ける。「よその家の芝生」を追う事ばかりを続けてきたのではないか。

 近年、「三位一体改革」、「補助金削減」など、地方への自主性への委譲が進められており、地方色を生かした独自のアピールが必須となっている。

 そこで我々GNH研究所が各地域復興のために進める提案は「内的発展」である。その土地の特色を生かし、もしくは復興する中で、外から無理のないタイプの、時代に即した情報を選び取り導入していく。小国ブータンの「タバコ販売全面禁止令」は、そのひとつのモデルである。ブータンの成功の裏側には人口の少なさも大きく関与している。100万人以下。この数は国の人口としては少なく、日本では市町村レベルの人口である。大きな目標を掲げ達成するのに可能な人口数であると考察する。地方で達成された成果はやがて国の発展モデルとなる事であろう。

 

文責 高田忠典

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