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東洋医学とGNH

 一般に中国大陸を発祥とする古典医学の事を東洋医学と呼ぶ。中国3大古典の一つとされる「黄帝内経・素問(こうていだいけい・そもん)」という医学文献には、古代の人達が自然と共に暮らし,また医学を通じて人体の中にまで自然環境を見いだしていたことが記されている。このように我々がエコロジーとか環境学と言っている最近のトピックスが既に二千年以上も前に体系化されていた事には真に驚かされる。

 中国の古人は、世の中の万物を陰(どちらかと言うと冷たい物)と陽(どちらかと言うと暖かい物)二つに分類し、やがて五つの要素(木・火・土・金・水)が互いに補ったり、抑制したりする自然の節理を発見した。これらの要素の持つ特性を生かし化学薬品のない時代に、自己免疫力をフルに生かすような治療を行った。東洋医学の治療法は大きく「標治法(ひょうちほう)」と「本治法」の2つのアプローチに分類される。前者は肩が痛ければ肩の治療、つまり患部である局所に注目を置き、後者は前に述べた体全体の調子を整えることで、治る環境を作っていくという方法である。いずれの治療法が有効であるかについて、しばしば治療者の間でも論じられている。著者の経験上、ズルイ解答ではあるが治療には両方の処置が必要だと考えている。状況を全体的に捕らえれば、全身の調和をとる処置が必要である。しかし、苦しがる患者を目の前にした時、患部をめぐる苦悩を取り除く処置も必至なのである。

 我々現代人を取り巻く環境へのアプローチにおいても同じ事が言えるのではないだろうか。全体を包括的に捕らえた環境の整備と、環境全体の「核」ともいえる我々「人類」の環境への自覚および教育。この両者に平行して取り組むことにより、永続的な環境活動が営まれると考えられる。

 東洋医学の用語に「未病」という言葉がある。「未(いま)だ、病(やまい)にあらず」の意味である。東洋医学の治療はこの様に病気と診断されないような状態にも対処していく。施術者は病の方向にある状態から患者の体調のバランス(内環境)および生活(外環境)を取り扱っていく。つまり患者に関わる環境の整備・保全をしていく訳だ。

 我々の環境意識も、既に悪化してしまったものを取り扱うだけでなく、地球全体が病となっていく方向にある状態を、いち早く感じとり、対処に取り組んでいく感性を養っていきたい物である。

 

文責 高田忠典

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