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GNH 研究の現状について

 現在、GNHはその理念面が大きく注目される反面、具体的な方策面での理論の構築が至急を要する課題であると多くの研究者に認識されている。つまり具体的に言えばGNH自体が主観的な要素からなるため、その計量化や指標化をするには不向きな性格を持っている。
 ブータンから発信された理論もしくは哲学であることは間違いないが、現在のGNHをめぐる解釈にはさまざまな考え方があり、必ずしも統一されている状態ではない。また米国の学者Mr.Hirataの「GNHは禅に通じる。GNHを追求する過程にこそ意味がある」との意見に代表されるようにGNH自体を一定の枠にはめることは困難と言えよう。

 GNHは日本語で「国民総幸福量」と約されることが多いが、この量という部分に筆者は抵抗を感じる。この幸福という概念は「1+1+1」という風に積み重ねることの出来るものなのか、その考え方こそが幸福感を阻害していないかと筆者は考える。
 具体的に言えば所有行為は幸福を感じる為のエッセンスのひとつではあると思うが、所有は執着に繋がる行為でもある。ブータン政府の国策のもうひとつの柱として「Middle Path(中庸)」があるが、まさに何事もバランスを取ることが必要なのであろう。
 では逆説的に「不幸だと思うことが無い」事が幸せな状態なのではないかという考え方もある。そしてこの不幸だと思わない人数を全国民との人口比で定量化すれば確かに他国との比較はできる。この解釈にはまだまだ難しい面もあるが、新しい動きともいえよう。

 ブータン王国ではGNHは国策となっている以上、多くの政府機関でその実現が試みられている。その多くは「GNHを感じることができる生活環境整備や社会システム整備」の性格を持っており、GNH自体を純粋に研究している機関はブータン総合研究所(Centre of Bhutan Study;CBS)のみであろう。
 またGNHに関する国際学会はその記念すべき第1回は2003年8月ブータンの首都ティンプで行われた。日本からもブータン研究者である上田晶子氏や元世界銀行副総裁の西水美恵子氏が参加し、英知を交わしている。
 この第二回目の国際会議は2005年6月にカナダで行われる予定となっている。その他の動きとしてUNDPブータン事務所もGNHの指標化を目指すなどの動きもあり、今後大きな動きになる可能性を秘めている。
 研究者の国籍も多様化する一方、GNH理論は単にブータン王国のみ通用する理論ではなく、今後の積極的な平和構築にかかわる新しい哲学の様相を見せている。

 

文責 平山修一

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