GNHとは? 斉藤光弘

 これまでの社会は経済的成長・競争社会を重視する傾向があった。GDPの様な経済的成長による量的拡大のみを「豊かさの尺度」として絶対視していたのだ。もちろんそれを全否定することはできない。しかし、経済格差、環境破壊、産業公害などの社会問題の拡大、自殺者数の上昇、少子化、失業などの形で、経済的領域に留まらず、政治・社会的領域にまで、経済偏重のほころびが出てきていることも確かである。つまり、これまで絶対的なものだった経済的成長という「豊かさの価値観」が揺らいでいるのである。

 その様な中で、GNHという概念の登場は、従来の開発理念に対する挑戦である。この地球、その国、その地域に住む人々一人ひとりが、より豊かに生きるために「自分たちは何を大切にしなければならないのか」について考えさせる一つの契機になった。

 GNHには完全に統一された見解などありえないと思う。なぜなら歴史的・文化的背景が変化すれば、人々が大切にしている価値観も当然変わってくるからである。ブータン王国が提示するGNH観に留まらず、私たち自身が、大切にしなくてはいけないものは何なのかについて考え続けていかなければいけないという意味で、「GNHについて考える」こととは、「価値観の確認する作業」である。

 

文責 斉藤光弘